Synfig:実験的要素を盛り込んだ2Dアニメーション用プログラム

 Synfig Studioはベクタ画像を使用可能な2Dアニメーション用のプログラムだ。Synfigはバージョン0.61.06-1をリリースしたばかりだが、プロが本気で使用を検討してもおかしくないほど十分なツールや革新的技術が備わっていて、1.0は間近と言っていいほどすでに完成度は高い。Synfigの機能に関する本当の意味での問題点は、Synfigの開発者たちが「実用性」と「標準的なインターフェースやツールの単なる気まぐれな変更」との違いを学ぶことができるかどうかという小さな点だ。

 Synfigは当初、Robert Quattlebaum氏によって同氏のアニメーション企業Voria Studios社のために作成された。Voria社は現在は存在せず、Quattlebaum氏は2004年にVoria社が廃業する際にSynfigのコードをGPL(GNU一般公衆利用許諾契約書)の下にリリースした。それ以来、Synfigの開発はゆっくりだが着実に進展し続けている。

 Synfigプロジェクトのウェブサイトでは、ソースコードとDebian、Ubuntu、Windows用のパッケージとが入手可能になっている。Mac OS X用のパッケージもリストには記載されているが、現在は深刻なバグの存在から利用することができない。またダウンロードページには、Gentoo、Mandriva、SUSE、Fedora Core 6などいくつかのディストリビューション用の非公式パッケージなどがある。

「革新」と「差異のための差異」

 Synfigは、Unix系システム用のグラフィックスプログラムの由緒ある伝統通りに、複数のウィンドウを開く。Synfigの場合、編集用のウィンドウに加えてツールのパレット、時間軸ウィンドウ、操作/ツール設定/レイヤ用のドックがある。ドックの中の各枠を、独立した専用のウィンドウにすることもできるが、Synfigの各ウィンドウは同期しないため、最小化や元の大きさに戻すためにはそれぞれについて行なう必要がある。

Synfig Studio
Synfig Studio(クリックで拡大)

 Synfigを実際に使い始めてみると、インターフェースのデザインの一部に明らかに実験的な部分があることに気付くだろう。そのような内のいくつかのケースに関しては、最悪なことに、実験は単に気まぐれで行なわれているだけのように思われる。例えば、メニューが標準的なメニューではなく編集ウィンドウの左上端のボタンから開くドロップダウンメニューであったり、単独フレームの編集と複数フレームの操作を切り替えるためのボタンやキーフレームのロックを切り替えるためのボタンがツールバー上ではなく編集ウィンドウの右下にあったりする。また、現在選択中のツール用の設定が、ツール用パレットのどこかにではなくドックの中になければならない理由も特になさそうに思える。さらにSynfigはともすれば独自の用語を使いたがり、そのことが必要以上にSynfigの学習を困難にしている。例えば、オブジェクトをコントロールするためのハンドルは「ダック(duck)」と呼ばれている。そのような気まぐれな変更によって非常に効率が上がることもあるかもしれないが、Synfigの習得に必要となる時間と、効率の向上のどちらが大きいかは微妙だ。

 とは言え、標準的ではないウィンドウのデザインにはそれだけの価値がある場合もある。例えば、編集用ウィンドウの下部に単純化された時間軸があるのは、とりわけ時間軸ウィンドウをオープンしていないときには便利だ。同様に、様々な機能でダックを使うことができることや、一つのオブジェクトを編集すれば他のオブジェクトも自動的に編集されるようにすることができるオブジェクトのリンク機能も便利だ。また、その時点では利用することができないツールがカラーでなくグレーになるといったこまかな気遣いからも、Synfigが使う人の立場からデザインされていることが分かる。実験は必ずしもいつも成功しているわけではないが、少なくとも開発者たちの努力の跡がうかがえる。

ベクタ画像、レイヤ、キーフレーム

 たいていのアニメーション作成用プログラムと同じくSynfigにも、形を描いたり、色を選んだり、領域を塗り潰したりすることのできる、GIMPのようなグラフィックス作成用ツールにあるようなツールが数多く含まれている。そのような定番のツールの一つとして、フリーハンド形式での描画(Synfigでは「bline」と呼ばれている)機能がある。これは一般にアニメーション作成用プログラムの典型的な機能の一つで、この機能を使うと制御点を使って操作することで閉じた形を作り出すことができる。

 アニメーションを作成する際には、動くオブジェクトについては一度に一つだけを編集した方が簡単だ。そのためSynfigのオンラインチュートリアルは、一つのレイヤにはオブジェクト(「プリミティブ」)を一つだけ置くようにすることの重要性を強調している。この方針に従っているとすぐにレイヤは何十、何百にも膨れ上がる可能性があるため、Synfigにはレイヤをまとめて操作できるようにするためのグループ化機能がある。また、グループ化したレイヤをレイヤスタック内でまとめて移動するためのメニューツールも用意されている。

 Synfigの独特の特徴として、PhotoshopやGIMPにあるようなフィルタやマスクが、編集用ウィンドウの中ではなくレイヤの中で適用されるということがある。したがってグラデーションやぼかし効果や歪み効果やさらには回転までも、レイヤ経由で追加されることになる。またレイヤを編集ウィンドウ内のオブジェクトと同じ形にすることまでできる。このようになっていることによりレイヤの数は大幅に増えることにはなるものの、アニメーションの複雑さを考えると合理的だ。フィルタやマスクのような効果を目に見えないようにしておいて、アニメーション内の他の要素に集中したいことが時折あるという理由はすぐに理解できるだろう。

 とは言えSynfigの最大の強みは、作業の負担を減らすことのできる「キーフレーム」を使用することができることだ。オンラインチュートリアルでも指摘されている通り、典型的なアニメーション作成現場では通常、リーダーであるアーティストが重要なフレームをデザインし、その部下であるアーティストたちがそれらのフレームの間のフレームを描くようになっている。Synfigでは、あなたがリーダーであり、Synfigがあなたの部下のアーティストということだ。つまり、Synfigにはキーフレーム間のフレームをデザインしてくれる機能がある。実際にはこの機能ではSynfigが他のフレームをうまく作成してくれるまで、あなたは最初に与えたキーフレームの間にさらに多くのキーフレームを追加していくことになる。しかしそれでもこのキーフレーム機能によって面倒を大幅に減らすことができるので、アニメーションにおいてより重要な変更点に集中することができるようになる。

 Synfigのキーフレームの実装に関する難点は、フレーム操作の枠と時間軸の枠の両方がデフォルトでは同じウィンドウ内にあることだ。それにより、大画面ディスプレイやデュアルディスプレイなどでない限り、両方を同時に表示することはほぼ不可能だ。時間軸上でクリックすることでフレーム操作の詳細を入力することのできるウィンドウがポップアップするように実装することはできなかったのだろうかと思った。なお現状では、あまりスクロールすることなく、かつ、あまり頻繁に互いの大きさを相対的に調整することもなく作業できるように、フレーム操作の枠を専用のウィンドウにしておくと良いかもしれない。

欠落している機能

 Synfigには、いくつかの機能が欠けている。多くの2Dアニメーションプログラムと同様に、Synfigでも音声が後からの付け足しであり、音声に関しては音声クリップの再生開始のタイミングの設定以外には何もできない。また3Dをまったくサポートしておらず、3Dの物体をインポートすることも、Anime Studio Pro(元Moho)で提供されているような正面/背面/側面のビューを使用してモックアップを作成することもできない。

さらにAnime Studio Proとは異なってSynfigは、画像の個々の領域の動き方を決めるための動作制御システムである「ボーン(bone)」を意図的に実装していない。プロジェクト創始者のプログラマであるQuattlebaum氏は以前インタビューの中で「Synfigの開発初期の頃に2Dアニメーションに関してボーンを使用することも検討したが、最終的には使用しないことに決めた。理由はボーンを使うことによって、アニメーション作成者が、例えば筋肉の質感や服の動きなど、キャラクタを生き生きとさせるための細かい調整を行なうことができなくなるためだ」と述べていた。しかしそのような反対理由は、キーフレームやその他のアニメーションを自動化する機能についても同様に言えることだ。ツールによって得られる結果は常に詳細に左右されるものであるし、またアニメーション作成者は、適切でないと感じた場合にはいつでも特定のツールの使用をやめることができる。したがってボーンを除外したことにより、Synfigはユーザを惹き付けることのできる機能を一つ失っただけだと言えるだろう。

 以上のような点は別として、Synfigの全体的な完成度は急速に高まっている。またSynfig独特の機能や一部の非標準的なインターフェースを除くとSynfigは全体的に簡単であり、すでに2Dアニメーションに慣れている人であればすぐに使い始めることができるはずだ。初心者でもSynfigプロジェクトのウェブサイトにあるチュートリアルから基本的なことを短期間で習得することができるだろうし、才能のある人ならばSynfigのウェブサイトのギャラリーにあるようなアニメーションを作成することができる。Synfigはすでに同類の他のプログラムに匹敵するものであり、Synfig 1.0がリリースされる頃にはそれらを簡単に凌いでしまうことだろう。しかし実際にそうなるかどうかは主に、Synfigの開発者たちがより革新的な技術をもって差異化することを学び、「発明」と単に他と「違う」ということとを区別し始めるかどうかにかかっている。

Bruce Byfieldは、Linux.com、IT Manager’s Journalへ定期的に寄稿するコンピュータジャーナリスト。

Linux.com 原文