カナダのオープンソースコミュニティが不安を指摘する著作権法の草案

カナダ政府が現在検討を進めている著作権法の内容は、同国におけるオープンソース型ビジネスモデルの信奉者に大いなる不安を感じさせるものとなっているそうである。

オープンソースの理念とビジネスモデルの擁護団体CSIA(Canadian Software Innovation Alliance)の一員であるRussell McOrmond氏によると、先月カナダ政府により公開された著作権法の草案Bill C-61は、以前にCSIAから白書の形で出されていた提案事項をことごとく無視した内容となっているとのことだ。

同白書は2007年12月にリリースされたもので、そこではオープンソース開発者にとって公平と思われるデジタル著作権の在り方が提案されていた。ところがMcOrmond氏によると、今回公開されたBill C-61は、オープンソースのビジネスモデルが成立する前提であるアクセス原則を妨げる内容になっていたというのである。

「Bill C-61では著作権保護システムや技術保護措置(TPM:Technical Protection Measures)としても知られている技術的な手法の回避措置を禁じているのですが、問題は、そうした技術的な手法を有する人間がどのような立場にあるかや、その種の回避措置が合法的に成されたものであるかを一切考慮に入れていないことです」と同氏は述べている。

「こうした不備の不正使用として、ソフトウェア作成者側に関係するであろうものが2つ指摘されています。その1つは、当該ハードウェアを実際に購入した人間以外の者がキーを所有するという形で適用されるハードウェア関連のTPMであり、もう1つはロックの施された特定ブランドのソフトウェアおよびデバイスによってのみ解除可能なデジタルコンテンツとして適用されるTPMです。ソフトウェア作成者の有すその他の権利が保護される以前に私どもが理解しておくべきことは、現状での潜在カスタマは、自分の使用するソフトウェアは自ら選ぶことが許されているということです。こうしたTPMの不正使用は、いずれもカスタマ自身によるソフトウェア選択の機会を失わせることになるでしょう」

カナダのオンタリオ州チルソンバーグを拠点とするOpen Computingにて活動するフリーランスのシステム管理者であるSean Hurley氏が、Bill C-61の抱える本質的な欠点として指摘しているのは、メディア関連のテクノロジに対するリバースエンジニアリングを違法化することはテクノロジの発展を妨げかねないという点だ。

同氏はカナダにおける現行の著作権法には改善の余地が残されている点は認めつつも、今回の草案については世界知的所有権機関(WIPO:World Intellectual Property Organization)の国際協定とされた価値観を一方的に押しつけるものであって、カナダ国内の消費者やアーティストの意見をフィードバックさせたものにはなっていないとしている。

「オープンソースのモデルと一口に言ってもサーバ関連のものは現状でかなり成熟しているので、それほど大きな影響は受けないでしょう」とHurley氏は語る。「ただしデスクトップ分野についてはオープンソースの普及を妨げることになります。マスコミ関連の巨大企業連合は……、すべてお金がらみで動いていますからね。そうした連中は、法的な観点からは実体を有さない団体であるオープンソースコミュニティとの間で、メディアの再生やロックの解除機構に関する使用許可契約やデジタル著作権に関する提携を結ぼうとはしませんよ。これはつまり、メディアデコーダの類をLinuxベースのデスクトップコンピュータに搭載することの妨げになるどころか、おそらくはその種の行為が違法活動と見なされるようになるということです」

「この法案は、各種の権利間のバランスを損なうことになります。それは消費や創造という活動に対して最低限の貢献しかしない第三者に最大の権利を与えることになるからです。そしてこれまで民法にて扱われていた権利問題は、刑法の管轄に移管されてしまいます。仮にこれが正式な法律として成立した暁には、カナダ国内でLinuxを用いてDVDを再生する人間はすべて犯罪者ということになりますね」

知的所有権を扱う法律家で、オンタリオ州トロントの弁護士事務所Aird & Berlis LLPに所属するKen Clark氏は、Bill C-61にはプラスとマイナスの両側面があると指摘している。もっとも同法案は、立法プロセスの極めて初期の段階に置かれているに過ぎないため、現状で個人的な意見は特に抱いていないそうだ。

「(提出された草案の内容には)バランスを取ろうとする方向での努力が読み取れます」と同氏は説明する。「私の見るところ、実行可能コードに対するリバースエンジニアリングという行為の一部は、DRM(Digital Rights Management=デジタル著作権管理)により妨げられることになるでしょう。とは言うものの、DRMには海賊コピーの蔓延を防止する働きも期待できるはずです」

「そもそもDRM機構の実装は、何らかの誤った方向に誘導される危険性を秘めていますし、この種の問題を解決する上での洗練されたアプローチとは言い難いでしょう。それよりも(政府は)権利や使用法の公正化に主眼を当てた条項を拡張しておくべきだったのではないでしょうか。その一方で提出された草案の中には、上演者の権利保護のような好意的に受け止めるべき内容が多数取り込まれているのも事実なのです」

CSIAは既に数百名のカナダ人による署名を集めた請願書を作成しているが、今後もオープンソースというビジネスモデルに対して現状のBill C-61がいかに危険であるかを、ソフトウェアコミュニティだけでなく政治家その他の政策決定者に訴えていくつもりだとしている。

「CSIAおよび各種の草の根団体は現在、ソフトウェア業界の関係者への呼びかけを進めており、また政治家など政策決定の立場にある人々との交流を図ろうと努めているところです」とMcOrmond氏は語る。「こうしたTPMの不正使用については、政府による適切な権利保護がもたらされないばかりか、それに抵触する者すべてが犯罪者と見なされかねないという本質的な問題点を、全員が正しく認識する必要があるはずです」

Ian Palmerはカナダのトロント近郊を中心に活動するフリーランスのライターであり、主としてテクノロジおよびビジネス関連の問題を取り上げている。

linux.com 原文